2019年の バリエーション組の 夏合宿(と言ってもメンバーはたったの3名ですが…)は夏合宿のメッカともいえる剱岳へ。
八ツ峰縦走はロープ登攀を伴わないクラシックルートとして、同じ剱岳の源次郎尾根や槍ヶ岳の北鎌尾根と同等に考えられていますが、実際には高い総合力の求められるなかなかの難ルートでした。
8月10日(土)
山の日を含む3連休で、且つお盆休みのスタートと重なり、更に天気もしばらく安定するとの予報もあって、入山口の扇沢は前夜から無料駐車場が満車状態。最下段の区画外の空きスペースをどうにか確保。扇沢駅まで歩いてマットとシュラフで仮眠します。(お仲間が20名弱くらいおりました。)6時半始発の電気バスで黒部ダムへ。ダムからいよいよ今日の宿泊地、真砂沢ロッジへの長いアプローチのスタートです。
初日は真砂沢ロッジまでのアプローチのみですが、標高が低いため、涼しい午前中の内に辛い部分を抜けておきたいと目論んでの始発バスでの入山でしたが、これが功を奏します。旧日電歩道から分かれ、内蔵助平までの歩きにくいアップダウンやハシゴ谷乗越手前まで続く涸れ沢の登りを何とかクリア。12時前にハシゴ谷乗越につき、13時半に真砂沢ロッジまでたどり着きました。普段は静かと思われる真砂沢ロッジですが、夏合宿シーズン真っ盛りだけに、大学の山岳会をはじめとして多くのパーティーがテントを張って賑わっていました。早く着いたのはいいのですが、暑いのには閉口しました。標高も低く、日影が無いのでどうしようもありません。川沿いのためある程度風があるのが救いでした。
8月11日(日)
いよいよアタック本番です。4時にヘッデンスタートしましたが、他のパーティーも続々出発していきます。まもなく一度雪渓に乗りますが、別山沢出合で一度切れ、大滝を越えて再度雪渓に乗ります。そこから長次郎谷出合まではわずか。いよいよ長次郎谷の雪渓を詰めていきます。
長次郎谷の熊ノ岩までは傾斜も緩く、ピッケル無しでもOKです。今日も早出のため涼しく、BC方式で荷が軽いので、雪渓登りがさほど苦になりません。順調に熊ノ岩手前まで到着。雪渓脇の湧水で水を補給して、ⅤⅥのコルへ向けて右岸に取付きます。コルへ直接登るルートはガレが不安定なので、Aフェースの基部から回り込みました。恐ろしいほど順調に6時半過ぎにⅤⅥのコルまで到着。いよいよ八ツ峰上半の縦走開始です。
開始早々一体どこを登っていくんだという壁ですが、事前に予習したとおり右側のルンゼを登り詰めていきます。いざ登ってみると見た目よりは易しいですが、いきなりクライミングに近い登りで、特にBフェースの頭に登り詰める手前が悪く、2番目以降はロープを出して登りました。(登りでロープを使ったのはココだけ。)
最初から随分とクライミングチックだな、と思っていたのですが、さすがは八ツ峰。最後までほとんどがそんな調子でした。標高が高いため草付きが少なく、ほぼすべてが岩稜帯で、アップダウンも多いため、Ⅱ級からⅢ級程度の3点支持を要する登攀が大部分を占めます。平和に歩けるような登山道的な踏み跡はほとんどありません。下りは懸垂支点があるところが多いですが、すべて懸垂していると時間もかかり、次々後続パーティーに抜かれていくので、可能なところはクライムダウンをする見極めが重要になります。我々が懸垂したのは、Ⅵ峰からの下り上段とⅧ峰からの短い下りの2回でした。
Ⅵ峰の先のコルからは右に明確な巻き道がついていますが、これはチンネ方面へのルートなので、八ツ峰縦走は一見道とは思えない稜線を忠実に登っていきます。この辺りなかなか豪快で楽しい所です。変化があってルーファイも楽しめます。
Ⅶ峰からは岩の割れ目を通過してコルまで行ったん下り、Ⅷ峰へはルンゼ状のところを登っていきます。所々Ⅲ級程度のポイントがありますが、ロープを出さずにガシガシ登ります。
Ⅷ峰の下りは短い懸垂(クライムダウン不可)で、その先のギャップは八ツ峰ノ頭側の残置ロープを掴んでおいて、思い切って跨いで通過します。ここはなかなか勇気が要ります。最後八ツ峰ノ頭までは難所の無い快適な登攀で終了です。本来の計画ではここから剱岳本峰まで足を延ばす予定でしたが、時間的に余裕もなくなるし、3人ともここまでで十分満足できたので、ここから池ノ谷乗越までおり、長次郎谷右俣雪渓を下降して下山することにしました。ということで八ツ峰ノ頭にで大展望に浸りながらの大休止決定。
八ツ峰ノ頭から池ノ谷乗越までは慎重にクライムダウン。乗越のすぐ下から雪渓が始まっていますので、雪渓手前でアイゼン&ピッケルを装着します。長次郎谷右俣雪渓の出だしは45度近い急傾斜の雪渓。滑落は絶対に許されないので、1歩1歩慎重に下ります。幸い雪はそれほど固くないため、ある程度ステップを切ることが出来ましたが、メンバーの1人はインゼル手前でミニスリップするなどし、ここが核心だったと言うほど。雪が消えた側面やインゼルはガレを下ることもできますが、それはそれで脆く崩れやすく、落石を起こしやすいので、これまた決して楽ではありません。
熊ノ岩付近まで来ると、ようやく斜度も落ち着いてきて、安心して歩けるようになります。熊ノ岩には15張ほどのテントが張られ、Ⅵ峰フェースには多くのクライマーが取付き、雪渓では大学の山岳部が訓練を行うなど、夏の剱岳らしい賑わいを呈しています。思いの外下りの雪渓で消耗した体に鞭を打ち、真砂沢ロッジまでひたすらに足を進めました。真砂沢到着が15:45。既に随分涼しくなっており、助かりました。
8月12日(月・祝)
今日は下山オンリーですが、やはり暑さを避けるため早めの行動。荷物をパッキングし、テントを片付けて、4時半に撤収です。時間の経過とともにだんだん暑くはなってきましたが、まだ許容範囲内。順調に歩みを進め、10時前に黒部ダム駅までたどり着き、10時5分のバスに乗車できました。これまた作戦大成功。山は早出が基本ですね。
全体を通して八ツ峰上半は圧倒的に岩稜帯歩きがそのほとんどを占め、想像以上にレベルの高いバリエーションルートでした。ロープ確保をしての登攀が無いため易しく思いがちですが、しっかりクライミングの練習をしていないと相当苦労すると思われます。Ⅲ級程度の岩場は何の心配もなく登れる登攀力が必要です。クライムダウン技術や懸垂の見極めも重要ですし、急傾斜の雪渓下りもあります。そしてそれを歩き通す体力が必要です。そういった意味で、より総合力の求められるバリエーションルートですし、それだけに経験者にとっても充実感の高いバリエーションルートでした。下半もそうですが、剱岳本峰への登頂もしていないので、また是非再挑戦したいと思います。
また剱岳はアプローチが遠いこともあり、なかなか簡単に訪れることができませんが、夏のこの時期は、一般ルートの登山者は勿論、Ⅵ峰フェースやチンネを目指すクライマーや、源次郎、八ツ峰、北方稜線を辿る人、長次郎谷や平蔵谷から登頂する人、雪訓をする学生など、様々な人々が様々な目的で集まり、それぞれの山行を楽しんでいるところであることが再認識できました。これほど夏合宿にふさわしい場所は無いのではないでしょうか。夏に長期休暇が取れたら是非剱岳へ。お勧めです。