日程 2015年1月11日
天候 雪(稜線上は風雪)
メンバー M崎さん(L)、I村さん、O田さん、K保さん、M野さん、T中(記録)
厳冬期の赤岳主稜は、バリエーションルートの中では、もっともポピュラーなルートの一つ。バリエーション入門級の筆者は、M崎リーダーの寛大な許しを得て、メンバーに加えていただいた。筆者自身、厳冬期岩稜帯の登攀は二回目だが、今回は厳しい環境のもとでの行動となり、多くの課題が残された。今後の山行への教訓として記録に残し、他のメンバーの一助となれば幸甚である。(筆者注:長編力作です。)
◆バリエーションメンバーは全員で6名
リーダーM崎さんはI村さんと組む。O田さんはK保さん、そして筆者は若者のM野さんがパートナーとなった。
◆体調管理は基本中の基本
一日前に赤岳鉱泉入りした6名は、2つのテントに3人ずつ入り、それぞれに前夜祭。寒さ、緊張も手伝ってか、4時起床時点でやや二日酔い気味。せっかくK保さんが作ってくれた雑炊を口にすることができず、パンを2つほど食べただけの朝食。いつまでたっても学習ができておらず、この時点で岳人失格。
◆風雪に対する装備
悪天候が予想されていたので、中間着を一枚加えた。下は3枚、上は5枚と着込んだが、上半身の動きを妨げないことに留意して着衣を選んだ。歩くと汗をかきそうだが、登攀時、待ち時間中の冷え対策を優先させた。これは正解だったと思う。
◆ゴーグルの失敗
6:00赤岳鉱泉出発、行者小屋6:40、ここで装備を整えた。まだ薄暗く、ゴーグルをつけると視界が悪いため、ヘルメットの上につけた。これが失敗。文三郎尾根の急登で汗をかき、ヘルメットとゴーグルの間にわずかな隙間があったようで、ゴーグルの内側が凍結してしまった。これで使い物にならず。
◆取付き点でのモタモタと環付カラビナの選択
8:00文三郎尾根から、雪の急斜面をトラバースすると取付きのチョックストーンが迫ってくる。思っていた以上に大きい。先行パーティが数組登っているのが見える。ここでM野さんと50mのダブルロープを結ぶ。グローブを付けた手でもたもた装着していると業を煮やした後続のパーティからこうしたらどうかとアドバイス。ATCとの接続をオートロックの環付カラビナにつけた。二つあったスクリュー付カラビナを使い切ってしまったため、やむなくオートロックカラビナを使ったのだが、これが後の苦行の原因となってしまう。
◆核心のチョックストーン
一番手のM野さんは、チョックストーンを難なくクリア。しばらくすると岩の向こうからビレイ解除の声が聞こえ、ロープアップをお願いした。寒くて口が開かず大声がでない。おもむろにチョックストーンに近づき登攀開始。ピッケルはハーネスに差し込んで両手を使って登った。ガバは多数ある。足はアイゼンの前歯で岩をひっかけながら体を持ち上げる。しかし上部は雪がつもっており手がかりがない。これは困った。反則技だが、M崎さんのアドバイスに甘え、ロープをつかんで登り切った。
◆マルチピッチの苦戦
チェックストーンの上にあがるとそこからは岩稜帯。少し上でM野さんがピッチを短めに切って待っていた。人工支点にセルフビレイし、M野さんが巻き上げたロープを反転してビレイしたスリングの上に乗せる。M野さんのダブルロープをATCにセット。ここで問題が生じた。オートロックカラビナになかなかロープが入ってくれない。ゲートを開けるとき親指のハラでこすりながら開けるのだが、冬の厚いグローブでは、分厚い生地がねじれてふくらみが生じ、ロープを入れようとするとグローブの生地が噛んでしまう。これは最後まで悩まされた。(筆者注:オートロックが原因ではなく、これはあくまで筆者個人の技術不足が招いたことです。)
◆マルチピッチの苦戦その2
先行パーティの声とM野さんの声が重なる。また、何よりも風を切る音で声がかき消されてしまう。声が通らないときは、3回ロープを引っ張るとビレイ解除の合図。
◆マルチピッチの苦戦その3
M野さんが順調に登るが、ロープの送り出しが追い付かない。時折、ロープが絡まってしまう。束ねる時にロープの輪がたくさんできているわけで、輪の間に輪が入り込むことで絡まりが発生する。この時、ほどく方向を間違えるとさらにからまる。理屈はわかっているが、寒い中冷静に考えることができず。体が自動的に動くようになるべき。
◆順番抜かしのパーティ
僕のモタモタを見た後続のパーティが途中の岩場で、コンテでいくので先に行かせてほしいと強引に抜いていった。確保は肩がらみ、抜いていく気がねがあるのか、急ぎ足での登攀で少々荒い登り方だ。僕のような初心者が先行しているので、イライラしたのだろうが、M野さんのロープを送り出している上を強引に登っていく姿はマナー違反ではないかとも思う。
◆岩稜帯での時間待ち
難しい岩の前には、順番待ちが発生する。それは3-4ピッチ後の岩の斜面で待っていた。先行2パーティが登攀中。約30分待ち。風が吹きすさぶ岩にビレイを取りながら待つしかない。体の震えがとまらない。ここでM野さんが、イチゴ味のロールケーキをとりだした。たべますか~といつもの声。一ついただいた。考えてみれば朝パンを2つほど食べただけ。加えて暖かい白湯もくれた。極寒の中で口にいれても味はしないが、暖かい飲み物を飲むと体にまわっていくのを感じる。しかしそれも一瞬のことで、やはり風が吹くと冷えてくる。ぶるぶる震える横で、M野さんは、温泉にはいりて~、熱燗のみて~と普段と変わらない能天気な口調。いつもはアホか、と思うのだが、厳しい環境下では、頼もしいというか救われる。
◆果てることのない作業
雪煙る岩稜の向こうに赤岳山頂は見えない。すでに10ピッチ程度登っていることになる。M野さんは、50m一杯まで延ばし登攀を続けていた。風の中の登攀が続く。草が凍りついた斜面をピッケルで刺しながら登る、岩をよじ登る、全て強風の中。右手の指先の感覚がなくなってきている。すると突然先行パーティの姿が見えなくなった。M野さんがロープを片付け始めた。根拠はないが、ここで終わりでしょう、という。疲れと寒さで答える気力もなし。ロープを適当に束ねザックに押し込んだ。実際に一般道はすぐそばだった。
◆赤岳山頂登頂を果たす
一般道に上がるとさらに風が強い。風速20m近くあったのではないだろうか。そんな中、M野さんが、赤岳頂上に行きましょうという。頭の中は、赤岳展望荘のおしるこが浮かんでいたので、なんでわざわざと思ったけど、反論するのも面倒なので行ってみた。すぐに頂上小屋があり、そして頂上はその横。14:20赤岳山頂到着。驚きだったのは、風雪吹きすさぶ山頂に人がいたということ。黄色いウエアを着た男性が一人座っていた。M野さんが当たり前のようにカメラを渡す。ハイチーズ。強風下の山頂でよくやると思う。
◆天国の赤岳展望荘
14:50赤岳展望荘到着。ホワイトアウトに近い外の世界と違い、小屋の中は天国。泊り客とみられる5-6人がお茶を飲みながら談笑している。M崎さんが注文したおしるこを少しいただいたら、この世ともおもえぬ暖かくて甘い味わいだった。しばらくすると小山さんがやってきた。この日は展望荘泊という。この風雪の中よく登ってきたものだ。
◆本当の核心
15:30、ぬくぬくの山荘を出て下山開始。しばらく歩くと地蔵の頭にでた。このころから強風の中で眼鏡が凍結して見えなくなってきた。暖かい小屋から外にでて、眼鏡ガラスが一気に凍り付いたようだ。地蔵尾根の下り、難しい場所はない、しかし、足元の雪が真っ白に見えて、怖くて足がでない。踏み固められたステップをはずして何度も転倒した。風でトレースは消え、視界も20-30mか。先頭を歩くM野さんが、尾根筋から右側斜面を下りだした。岩場がでてきて、切れたった斜面をトラバース。落ちたら奈落の底だ。ここは一般道ではない、と思っても6人全員来てしまって、そして行き止まり。思考と判断力が低下しているのがわかった。一般道で道がわからなくなっている。4年前にも同じところで経験したことがまた起こってしまった。
◆帰還
来た道を引き返し、トレースなき中をそろりとあるくと鎖が見えた。階段が埋もれている。O田さんが先行して、一般道を見つけてくれた。トレースがついた樹林帯にはいるとほっとした。17:10赤岳鉱泉到着。最後はヘッドランプを点灯。本日の行動時間は11時間を超えた。強風雪の中での登攀、道迷いにおびえながらの下山だった。
◆振り返り
厳冬期マルチピッチ登攀としては、厳しいデビュー戦だった。寒さは限界を超えていた。よくぞ耐えてきたと思う。これも仲間からのサポートがあったからこそ。赤岳主稜を登ったなどというつもりはない。連れて行ってもらったという方がいい。それだけに、実力不足、技術不足を要因とする課題がはっきりとわかった。これを反省として、これからクライミングの練習に真面目に取り組まなければと考えている、かどうか、これから考えることにする。
Special thanks to ;
M崎さん、白馬主稜に引き続き、メンバーに加えていただき貴重な経験をいたしました。ありがとうございました。
M野さん、つたない素人を引っ張って、主稜に連れて行っていただきました。極寒の中でもユーモアの心を忘れず、心強く思いました。
O田さん、50mの黄色いロープを貸していただいてありがとうございました。そういえば美濃戸口と赤岳鉱泉の間も運んでくれたんですよね。ごめんなさい。
K保さん、おいしい鍋、すき焼きありがとうございました。また前が見えなくなった時のサポート助かりました。雪の中の天使に見えましたヨ。
I村さん、車で迎えに来てもらってありがとうございました。最後に荷物を車に忘れてしまって、もう一度届けてもらいました。すみませんでした。