《メンバー》Y田K子
第一部 初恋の・・・
9月6日、北海道女満別空港に降り立つ、レンタカーを借りて いざ知床へ! 北海道には十数回訪れているが、久しぶりの一人旅。
途中、斜里岳、知床連山が出迎え、明日も晴れる!と心躍り、ドリカムの「晴れたらいいね~」を熱唱する。
今宵の宿は、羅臼にある 「とおまわり」 という宿で、宿泊するのは4回目。 とにかく魚がいっぱい出ることで北海道を旅する者には有名な宿。夕飯に出ためんめの湯煮(本州では「きんき」と呼ばれる魚、ちろっとしょうゆをかけて食べる)、旬の鮭の白子、イカのごろなど羅臼産の魚に、「うんめ~」とうなり声が出てしまう。 でも、こんなにおいしい魚が次々と出て来るのに、私は、明日の羅臼岳との対面にあまりに緊張しすぎて、食べ切れなかったし、大好きなビールも飲めなかった。
初めて北海道を訪れた25年前。当時は、自分が山に登るとは微塵にも思っていなかった時だが、知床峠でその姿を拝見し、「わ~、この山かっこいい♡。」と思わせてくれた初恋の山、 それが「羅臼岳」だった。 それ以来、私にとっては憧れの山として、ずっと存在してきた。
そのあこがれの君への長年の思い、熊への恐怖、おまけに直前に登山靴が壊れ、ほぼ新品の靴で登らなければならないプレッシャー。 加えて、その宿に遊びに来ていた漁師が言うことにゃ、明日の天気は強い北風が吹き、北風の時は羅臼は晴れ(漁は良好)、一方で反対側のウトロ側 つまり羅臼岳は荒れる可能性があると聞かされ、緊張が増す。 (知床半島はオホーツク海と太平洋に挟まれて、両方からの海洋性気象の影響があり、天気が難しい。) え~明日の天気はダメなんて・・・。日程を延期すればよいのだが、延期すれば一人で登ることになり、熊が怖い。 どうしよう、最近、旦那に行程判断を委ねて、自ら判断をしていないと反省しながら、眠れない夜を過ごした。
登山の日、9月7日4時起床。5時に宿を出発。 きれいな朝焼け。漁師の言葉どおり羅臼は晴れ。 ところが羅臼から知床峠に向かうにつれ霧が発生して、初恋の君 の姿は全く見えない。 でも、登山口まで行ってみることにした。 岩尾別温泉登山口6時着。 雨なら止めようと思ったが、晴れているので進むことに決めた。
今回、同行者はとおまわり宿主の通称 「ななめさん」。 熊が怖いので同行してもらった。ななめさんは羅臼岳登山回数およそ50回程、趣味トライアスロン、熊よけスプレー持参で頼もしい。
口癖は、「俺はガイドじゃない、ただ羅臼岳が好きだから登る。」
羅臼岳の登山道の印象はずばり歩きやすい。危険箇所もない。知床が世界遺産となり、整備が進んでいるからか、ガイドブックに急坂と書いてある最初の1時間もつづら折で歩きやすい。 そして560m岩峰からは熊が多数出没する地域。蟻を食いにくるらしい。確かに登山道に丸々太った蟻が目立つ。この蟻確かにおいしいそうだなあと思い、熊はこの蟻何匹食べたらお腹いっぱいになるのだろうとか考えたりしていた。
登山口から1時間半程で弥三吉水という水場に着いた。 ガイドブックではこの水場は要煮沸と書いてあるが、ななめさん曰く、「道内の人間でこの水を沸かして飲む人はいない。そこからすぐ湧いてる水なので大丈夫。」とのこと。 北海道の沢水は、北キツネの持つ 「エキノコッス」 という害虫が混入している可能性があるため飲めない。最終的には自分で判断してと言われ、私はおいしくいただいた。
この水場からは極楽平というまさに極楽の平らな道が続く。 ところが・・・ ルンルン!って 暢気に歩いていたら、「ぶぉ~ん」という犬がほえるよりも重低音の声が聞こえ、背筋が凍る。 「熊か?!」 と息を呑む。 その後、特に動きがなかったため、「熊じゃないよね~」と話しながらゆっくりと進むが、 ななめさんはしばらく熊スプレーに手をかけていた。 熊が居たのか真相はわからないが・・・。 後でななめさんも「実はびびった」と話していた。
このあたりから、登山道はガスが出だし、全く眺望がないのであるが、道が楽ちんなのとダケカンバが雪の重みで斜めに生えているのが奇妙で、きれいで足が進む。 こんな悪い天気なのに、初恋の君に抱かれているからか、楽しくてたまらない。
そんなこんなで羅臼平まで到着したが、ガスで視界はほぼ0。 頂上まで行くか迷ったが、 昨晩の漁師の言葉ほどに北風は強くなく、しかも寒くないので、進んでいく。 本当に笑ってしまうくらい、な~んにも見えない。 でも楽しいのだウフ!
途中、岩の隙間からちょろちょろと湧いている岩清水の水を飲む。 ネットで羅臼岳登山記を読むと、誰しもがこの水は旨いと書いてある通り、冷たくて旨い。今まで山で飲んだ水では一番おいしかったかも。
ここから先は岩場になり、ガイドブックにしんどいと書いていあるが、 言うほどしんどくなく、あこがれの羅臼岳頂上2m手前まで到着。 するとそこで何名か登山者が溜まっている。 頂上は狭いわけでもないのに、「なんで進まないの」と尋ねたところ、 頂上は突風だと言うのだ。 え~、ここは大丈夫なのに、そんなついその先が突風だなんて。
うっそ~と思いながら、頂上に着いたとたん、踏ん張らないと飛ばされるほどの突風。 しかも今までの北風ではなく、ここだけ南風の突風なのだ。 「ここが、あこがれの羅臼の頂上だわ~」 とか感慨にふけっている暇は全くなく、溜まり場に下がる。
あこがれの君はつれないのね と考えながら、 「また来るぞ」 とリベンジを誓う!! 本当にまっ白けっけの頂上でしたが、登れてとてもうれしかった。 頂上到着は10:40。お昼食べて下山開始11:15。
*景色のよい写真がなくて・・・すみません。
登山口に戻ってきたのは14:00。 あんなに頂上はガスガスだったのに、下界に降りてきたら、知床連山以外は、晴れてる~。 ひえ~! 山の上にだけ雲がかかっているなんて~。まじ~。
下山途中、俺はガイドではないと言っていたななめさんでしたが、羅臼岳の植生のことやクマゲラやアカゲラの野鳥の話、世界遺産になってからの知床の様子、最近、羅臼で獲れる魚が変わってきていることなど、知床の話は尽きない。 この人は本当に羅臼が好きで、ただ純粋にそこにある羅臼岳という山を楽しんでいるんだなあと 感じて、とてもうらやましかった。
羅臼岳は日本100名山で、制覇する山の一つとして登りに来る人は多い。 私も制覇するという目的で登っが、この山が好きで登るというななめさんの言葉に、山を味わう楽しさを見直す機会を与えられたような気がした。 初恋の山は、山を始めた頃の純粋に楽しい~という気持ちを思い起こさせてくれました。
第二部 意外性に惚れる・・!
9月8日 斜里岳のふもとの清里町にある「ロッジ風景画」に宿泊する。 この宿のオーナーは山岳ガイドで昭文社の地図の斜里岳の監修をおこなっている方。 斜里岳登山について事前にレクチャーを受ける。事前の注意事項は3つ。
1、最初の沢の渡渉が水量多く出来ない場合、上流で増水している恐れがあるので引き返せ。 2、沢は濡れる覚悟で真ん中を進め。渡渉で石を飛び跳ねると滑るから、道を選ばず歩け! 3、つばのある帽子はかぶるな。 木に頭をぶつけるてケガする人が毎年多い。 そして、この山は天気が悪くても、本当に楽しいよ!と笑顔で言われた。
今回の山旅の目的は羅臼岳で、斜里岳は何の思い入れもなく、近くにあるかついでに登るかと、正直、悪天候なら登らなくていいやぐらいに思っていた。
9月9日 登山の日。 天気は晴れだが、宿から見える斜里岳は雲が切れたり、かかったりで基本的に眺望は期待出来そうにないと感じた。 でも、出発前にまたオーナーから、「きっと楽しめるよ」と声をかけられ7時に宿を出発。 宿の宿泊客に登山者がいたので、登山口までいっしょに行くことになり、行程中、結局ほぼ同行者のようになってしまった。 宿から登山口のある清岳荘まで20分、7時半に登山開始。
登山口から15分程度林道を行くと、下二股まではあまり傾斜のない沢の脇を登り、時々渡渉をする程度であるが、
下二股から旧道コースに入るといくつもの滝が出てきて、時折、沢のなかを歩く。
一般道だから沢登りとは言えないかもしれないが、アドベンチャー感があってとにかく楽しい。 沢って楽しいのね、今後、山岳会で沢登りに参加させてもらいたいなと思ったりする。
沢が終わるとともに、新道コースとの合流点である上二股に着く。 ここに15人程登山者が休憩していた。広島から3泊4日で羅臼、斜里、雌阿寒と100名山を登るツアーらしい。毎日一つ登っては、次の山の登山口付近まで移動するとのこと。そんなんで山を楽しめてるのかしらとか思ったりした。 まあ、人それぞれの目的があるからね・・・。
上二股から頂上までは普通の登山道を1時間程登り、頂上着11時。 予想通り雲がかかり下界は全く見えない。そのうち晴れるかと1時間程待ってみたが、この山も下界を拝ましてはくれなかった。
下山は沢の旧道ではなく、新道を行く。 こっちの道は尾根道を下る。
登りですれ違ったおじさんから新道はつまらないと言われていたので、期待していなかったのだが、下山道は、縦走路のようにアップダウンがあり、ガスっていて展望はないのだが、これまた楽しい。 非常にバラエティに富んでいる山で、宿のオーナーが言っていた 「楽しめるよ」という言葉を実感した。
全く期待していなかったこの山は、例えると、全く眼中にもなかった人と話してみたら意外と素敵で、また会ってみたいと惹かれていくようなそんな山であった。
羅臼にしても斜里にしても、素敵な山で、また絶対登りに来たいと思います。
今回の山旅は、その他、雌阿寒岳、西別岳・摩周岳の登山も試みましたが、いずれも天候悪く、登山は断念しました。 しかし、久しぶりに一人での登山は、日頃、旦那に天候、地図読みなど行程を委ねていることを実感し、自分でもしっかりと判断しなければいけないこと痛感しました。 でもでも、そうは言っても、来年はいっしょに北海道に来たいなあ~。 この旅の最後に、阿寒町の鶴居村で つがいでないと生きられない丹頂鶴を何度も見て、来年は「夫婦でおいで!」と 鶴が言っていると勝手にこじつけてしまいました。
以上